農業生産は、食料・飼料や繊維・医薬品等々の多彩な原料を供給することによって人間生活を広く支えています。また、農地とそこに形成される生態系は、自然と深く結びついた環境構成要素であり、国土保全や環境保全に多面的な役割を果たしています。さらに近い将来には、再生可 能なバイオマスエネルギーの重要な供給源になると期待されています。
生物生産学科では、日本および世界の農業を広く深く理解するとともに、農業に関わる最先端の科学と技術に関する知識を身につけて、その知識を農業の持続的発展や農産物の流通・加工、さらには農業の多面的機能の積極的利用に活かすことのできる人材の養成を目指しています。
この目的のために、生産環境技術、植物生産、動物生産(家畜・昆虫)および農業経営経済の4分野の基礎的事項をすべての学生が理解し、 そのうえで、学生個々人の選択に基づき個別分野に重点を置いた履修や全分野型の履修を進めます。これらの教育は問題解決の能力や独創的発想を生み出す能力を伸ばすことを意図して行われます。
卒業後の進路は、公共部門及び私企業部門の技術者、研究者あるいは農業生産者、行政担当者と多様ですが、いずれの場合も農業関連の社会部門で指導者とし て活躍できる資質の育成を目標としています。
私達は、「農業は人類共有の財産である」と考えています。私達が目指す農業は、「持続可能な農業」です。人類になくてはならない食料や 繊維、そして様々な価値を供給してくれる農業を、次の世代にも正常なかたちで受け継いでもらいたいと考えています。
世界は今、飽食と飢餓の併存のなかにあります。開発途上国は人口の急増と貧困の進行により、飢餓の解消は困難な状況下にあります。途上国を中心に栄養不足の人々は8億に達し、まさに、「食糧危機」下にあります。
一方先進国は、飽食的状況下にあります。なかでも日本はいびつな状況です。飽食状況であっても、食の供給基盤は極めて脆弱です。食料自給率は低下し、農業労働力は激減・老齢化し、農地は減少し耕作を放棄するところも出ています。「農業危機」的状況下にあるといっていいでしょう。
そのため、農業・農村の多面的機能も後退しつつあります。多面的機能とは、食料の安定供給、国土・環境の保全、景観の形成、地域活力の維持、食品の安全性の確保といったもので す。これらは正常な農業生産活動が行われてはじめて保障されるものです。
農学は、日本及び世界の食料農業事情を改善・解決し、人類の生存と福祉に貢献しなければなりません。そして、私達が、また日本が行うべきことはたくさんあります。世界の食料需給を不安定にしている要因の除去に努めること、途上国の「食糧危機」の解決のための協力をすること、日本が責任のもてる国内食料生産量を国内で確保すること、消費者に安全な食料や繊維を供給すること、多面的な機能を維持向上させることです。生物生産学科は、こうした問題の解決に向けて真正面から取り組んでいます。
生物生産学科は、農工大学5つの学科のうちで最も農業に関係の深い教育と研究を行う学科です。生物生産学科は、農工大学が130年の長い歴史のなかで培ってきた
1.自主・自立・自由の精神
2.個性の尊重・発揮
3.連携・協力の推進・促進
といった哲学と精神のもとに、農業・農学の進歩と発展に大きく貢献するとともに、多彩な人材を輩出してきました。私達は、これからも日本及び世界の農業と 農学の発展のために、培われてきた精神と農学の成果をいかしていきます。
生物生産学科は、こうした精神と農学の成果を活かしつつ、次の4つの理念に基づき教育と研究を行っています。
(1) 生物生産学科は、生物生産学が農産物の生産から消費、リサイクルの各局面を対象とし,人と自然・環境・社会に関わるあらゆる学問領域によって成り立つ 総合科学との認識をもとに教育と研究を行っています。
(2) 生物生産学科は、動植物の自然的性質とその社会的役割、食料や繊維などの持続的生産等に関する自然科学・社会科学の接近方法を体得させることに教育の中心をおいています。
(3) 生物生産学科は、最先端かつ環境調和型の、さらに地域のニーズにも対応した生物生産科学や農業技術を修得するとともにそれらの普及の在り方を科学することも教育の柱としています。
(4) 生物生産学科は、日本や開発途上国はじめ世界の農業を持続的かつ発展的にマネジメントできる生産者・技術者・指導者・研究者の養成を教育目標としています。
生物生産学科は、農産物の生産から消費まで、人と自然を結びつける「農の営み」に関連する学問分野を幅広くカバーした4つの科目系を置き、 科目系ごとに現代のニーズにあった各教育研究分野を配置しています。
そして、4科目系の連携と協力のもとに、教育理念の実現をとおして、食料自給力向上への貢献、 地域社会及び国際社会への貢献、持続可能な社会建設への貢献を目指しています。